エンジニア(技術者)の業務が社会や環境に及ぼす影響が近年益々増大し、公益確保や持続性に対してエンジニアひとりひとりが十分に認識すべきことから、技術者倫理も重視されています。産業に関係する事故の防止、製品や製造による環境負荷や健康への影響の紡糸、自然災害対策、地球環境の持続性などに対し、エンジニアの業務が関係することが多々あります。
そうしたことを個々のエンジニアが認識し、組織でのエンジニアリング業務の中においても、常に社会や環境を念頭に活動をすることが求められます。技術者倫理は礎(いしづえ)となるもので、エンジニアは業務分野の専門知識やスキルを身に付けることと同等に技術者倫理も身に付けるべきと考えます。その具体例として、技術士とJABEEにおける技術者倫理の位置付けをご紹介します。
技術士と技術士倫理
エンジニアの国家資格である技術士は、技術士法という法律で定められ、その第一条には法律の「目的」として、
この法律は、技術士等の資格を定め、その業務の適正を図り、もつて科学技術の向上と国民経済の発展に資することを目的とする。
とあります。また、第四十五条の二には、「公益確保の責務」として、
技術士又は技術士補は、その業務を行うに当たつては、公共の安全、環境の保全その他の公益を害することのないよう努めなければならない。
とあります。すなわち技術士は「科学技術の向上と国民経済の発展に資するもの」であると同時に、「公共の安全、環境の保全」も両立する必要があるということです。このことは技術士ではなくともエンジニアの業務には当てはめて考えるべきです。「科学技術の向上を一方的に進めても、公共の安全、環境の保全が確保できなければ、国民経済の発展に資することができない」という認識を持つべきです。ここに技術者倫理の基本があります。
JABEEにおける技術者倫理
大学等における技術者の育成を目的とする専門教育プログラムの認定を行うJABEE(日本技術者教育認定機構)では、その認定基準の中の「基準1:学習・教育目標」において、
(a)地球的視点から多面的に物事を考える能力とその素養
(b)技術が社会や自然に及ぼす影響や効果、おようび技術者が社会に対して負っている責任に関する理解(技術者倫理)
としています。JABEEでは教育組織の技術者教育プログラムに関し、社会の要求や国際水準に適う教育成果を達成できるか、継続的な教育改善活動をしているかという観点から、プログラム自体を評価し基準に適うものを認定しています。その認定基準の1番目に地球的視点と技術者倫理が位置付けられています。つまり、大学での技術者教育の大前提に、技術者倫理への理解が求められているということです。
エンジニアの技術者倫理の習得
すでに大学教育において技術者倫理を学ばれたエンジニアの皆さんも多いかと思います。エンジニアの領域は年々拡大し、製造業から流通業、サービス業、金融業など様々な分野に及んでいます。そのことは、技術者倫理の適用分野も広まっていることを示し、エンジニア自身の継続的な自己研鑽も必要とされます。またAI、IoT、UAVなどといった技術導入による公益や社会環境に及ぼす影響についても、個々のエンジニアの考察も求められることでしょう。
その際に、エンジニアリングの新たな動向に追随するのではなく、過去の事例に学び、今後の変化に対して考察できるような素養を身に付けるべきと考えます。また技術者倫理を習得することで、狭い領域にとどまらず、社会とのつながり、社会への貢献を意識したエンジニアにステップアップすることも可能と思います。このようなことを意識され、技術者倫理を身に付けたエンジニアになるべく、研鑽を積んでまいりましょう。