総監技術士になろう

総監の受験を志す方、また検討中の方、希望をかなえるには、まず受験に合格することを思い描いてください。ゴールに向かって歩み始めること、それがが受験対策のスタートです。途中でくじけそうになった時には、最初に立ち返り受験に合格することを改めてイメージしてください。諦めずに最後まで対策を続けることが、最大の合格メソッドになります。

総監技術士になり得られること

では総監二次試験に合格し総合技術監理部門の技術士として登録することで得られるものは何でしょうか。これは総監二次試験での合格基準から考えれば明らかになります。今年度の技術士二次試験受験申し込み案内には、このように書かれています。

筆記試験の必須科目※(択一式、記述式):「総合技術監理部門」に関する課題解決能力及び応用能力

口頭試験の必須科目に対応:「総合技術監理部門」の必須科目に関する技術士として必要な専門知識及び応用能力

※総合技術監理部門の必須科目の内容は、次の通り

ⅰ.安全管理 に関する事項 ⅱ.社会環境との調和 に関する事項 ⅲ.経済性(品質、コスト、生産性)に関する事項 ⅳ.情報管理 に関する事項 ⅴ.人的資源管理 に関する事項

以上のようにシンプルな内容ですが、必須科目の内容とされる5つの管理についての「専門知識、応用能力、課題解決能力」が合格基準に達しているということになります。これを言い換えると『5つの管理それぞれについて専門知識を持ち、応用する能力もあり、さらにトレードオフも考慮しながら課題解決をする能力がある』となるでしょう。

専門技術だけは解決できないような複雑で社会的影響の大きい課題について、総監技術士には解決するだけの能力がある、と試験の上では認められたことになります。これが合格により得られるものです。十分、自信を持てる結果であると思います。また座学だけでなく、業務経歴や小論文にもとづき実際の体験についても評価がされたものです。この事実は総監技術士の拠り所となるでしょう。

総監技術士としての独り立ち

私は、総監技術士になることで、エンジニアとしての独り立ちに踏み出せるものと考えています。これは独立起業ということではなく、広い視野、高い目線を持って、多くのことを見渡し、他の分野の技術者や専門家の協力も仰ぎながら、様々な管理技術や調整能力を駆使し、全体最適化のもとで課題を解決する能力を発揮し、より大きなテーマやプロジェクトを推進するエンジニアとして独り立ちできる、ということです。

総合技術監理部門は文部科学省が定義した資格と内容で、対応する業界、学協会や団体も無く、世の中的には特異なものかもしれません。しかし様々な要素を包含しており、たとえばプロジェクトマネージャーの要素、技術経営の要素、総合品質管理の要素などです。こうした既存の要素を自由に活用できるのも総監技術士の特徴です。あるときはイノベーションを推進する技術担当責任者、あるときは新製品開発プロジェクトのマネージャー、あるときは現場改善を推進するマネージャーといった役割ですが、それらの業務の根底には総監の5つの管理の要素がまんべんなく入っているはずです。

総監技術士の継続研鑽

総監技術士は合格結果に満足せず、高いレベルで継続研鑽が求められます。最新の社会情勢や各分野の技術動向などを踏まえ、常に専門知識をアップデートする必要があるためです。近年の筆記試験の出題では、「SDG’s」、「働き方改革」など国際情勢や政治テーマを反映したキーワードが使われています。専門技術だけではこのような社会動向への対応は難しく、総監技術士に課された継続研鑽によって変化に対応する能力を身につける必要があるでしょう。しかし恐れることはありません。5つの管理を身に着けた総監技術士であれば、なぜ社会情勢の変化が起こり、どのような対応策が考えられるか、すぐに対応できる基礎知識の形成と思考の訓練がすでにすんでいるはずです。

私の場合:総監技術士になってから

私の総監技術士の登録は比較的遅く、50代前半でした。メーカーの技術者から公益法人に出向となった4月に突発的でしたが総監受験を決めました。メーカー在職中は多忙で新たな資格試験に臨む余裕もなかったのですが、職場が変わり新たな気持ちで受験対策にのぞむことができ、何とか一発合格することができました。

技術開発とものづくりの現場から、調査研究やイベント開催など情報発信の分野に移り、業務内容も関係先も大きく変わっていました。特にステークホルダーが多様で、国、自治体、個人経営者(農業者)、JA、メーカーなど、様々な立場の方々との業務を進める必要がありました。そうした中で、農林水産省から農業生産現場の経営支援の活動をやってほしいという依頼があり、未経験の分野に着手することになりました。経営支援といっても、お金の話、現場改善の話、技術面の話、販売面の話など多岐にわたります。一担当者では支援できる内容ではなく、多くの専門家の手を借りることになります。

その後、生産管理、栽培管理、設備管理、農産物流通などの専門家の指導を得ながら、ある農業法人に対する経営支援活動を2年間にわたり行いました。どの専門家にも現場の調査や検討会に参加してもらい、他の専門家の指導状況や結果も確認してもらいつつ、経営支援を進めました。ある分野だけ突出して進めても全体の成果は上がらないことが多いためで、全体最適化を優先したプロジェクト管理を行ったものです。しかしポイントとなる改善事項については徹底して対策を検討し実施することを繰り返しました。また支援を受ける農業経営者は1名であり、多くの専門家から色々な指導を受け混乱することもありました。当事者がしっかりついて来ることが大切であり、経営向上のためのモチベーションを維持するよう随分と辛口のことも言わせてもらった記憶があります。

この経営支援のプロジェクトによって経営も改善され、地域でも先進的な事例にもなり、現在も経営拡大をされています。こうした業務活動は、メーカーのエンジニアにはチャンスもありませんし、他分野の専門家との協業もすぐには難しいと思います。やはり総監技術士となり、5つの管理の視点を現場に応用し、また視座も高く持ちトレードオフの調整など全体最適化をはかる手法を実施できたことが大きかったと思います。

以上の私の業務経歴から、総監技術士として独り立ちしプロジェクトを推進したことをご理解いただければと思います。これは一例に過ぎませんが、総監技術士として取り組める業務の範囲や分野は、大きく広がっていくはずです。そこで技術士として独り立ちした業務を成し遂げ、社会貢献を一層進められることを願ってやみません。