総監筆記試験問題の解法例(平成30年度①前文の分析)

筆記試験対策の基本は、過去問対策です。それには過去問の文章そのものを理解する必要があります。昨年度の試験問題を引用しながら詳しく見てまいります。

第1段落(働き方改革のテーマ設定)

最近の日本社会における労働の状況に対しては、長時間労働の抑制、労働生産性の向上、技術革新に伴う必要人材要件の急速な変化、女性や高齢者の労働参加の促進、時短労働や副業といった多様な働き方への対応等、働き方改革に関する様々な課題が提示されている。現実的な問題として、入手不足のために依頼業務を受託できない、深夜営業を取り止めるといった業種が存在することも様々な場で見聞する機会があろう。

この最初の段落を一読すれば、「働き方改革」が論文テーマになることが想定されます。そして背景として「長時間労働の抑制、労働生産性の向上、技術革新に伴う必要人材要件の急速な変化、女性や高齢者の労働参加の促進、時短労働や副業」が提示されています。つまりこれら背景をキーワードとして、働き方改革をテーマに解答骨子を考えることが想起されます。

第2段落(働き方改革実行計画の背景)

平成 29 年 3 月に働き方改革実現会議(議長:内閣総理大臣)が決定した働き方改革実行計画では、非正規雇用の処遇改善のための同一労働同一賃金の実施、賃金引上げと労働生産性向上、罰則付き時間外労働の上限規制の導入等が柱となっている。これらは 70 年振りの歴史的な大改革とされているが、その背景には、将来的な高齢化率の上昇や就業者数の減少、現状における年平均労働時間の長さやパートタイム労働者の賃金水準の低さといった分析がある。

この段落では、さらに働き方改革実行計画について触れられています。後半にその社会的背景として、以下の4点があげられています。この背景は解答で利用して良いでしょう。

  1. 将来的な高齢化率の上昇
  2. 就業者数の減少
  3. 現状における年平均労働時間の長さ
  4. パートタイム労働者の賃金水準の低さ

第3段落(働き方に変化を及ぼした具体的な事象)

歴史を振り返れば、技術進展や社会変化、政策的誘導によって働き方が変化してきていることも確かであり、今後も、その時その時の社会の課題に応じて常に改革が求められよう。働き方に変化を及ぼした具体的な事象には、例えば次のようなものがある。

  • 建設現場や工場における危険作業の機械化による安全性の向上
  • コンピュータの発達による設計作業や事務作業の効率化
  • 交通網の発達に伴う地域間の協働や交渉の容易化
  • 情報通信技術の進展を背景としたコミュニケーション形態や働く場所の多様化
  • 社会環境意識の高まりに伴う配慮すべきステークホルダーの拡大
  • 熟練労働者の減少に伴う徒弟制度的な技能訓練方法の変化
  • いわゆる男女躍用機会均等法による女性の社会進出の加速
  • 社会的、政策的要求を背景とした子育て世代や障害者の雇用促進

この段落と箇条書きには、働き方に変化を及ぼした事例をあげて説明しています。解答に織り込む具体的な材料を決める際に利用しても良いでしょう。

第4段落(要求事項1:解答に盛り込む内容)

総合技術監理の技術士として様々な事業・プロジェクトの推進や組織運営を担う上で、働き方改革の実現は重要な観点である。そこで、働き方改革の必要性、具体的な方策とその影響等について考えていくこととする。

この段落では、「働き方改革の必要性、具体的な方策とその影響等について考えていくこととする。」が示されています。下記の3点を解答骨子に盛り込む必要があります。

  1. 働き方改革の必要性
  2. 具体的な方策
  3. 働き方改革の影響等

第5段落(要求事項2:テーマ設定と総監の視点)

ここでは、あなたがこれまでに経験した、あるいはよく知っている事業又はプロジェクト(あるいはより広く、所属する組織や業界としてもよい。)を 1 つ取り上げ、その目的や創出している成果物等を踏まえ、働き方改革に関して総合技術監理の視点から以下の(1)~(3)の問いに答えよ。

取り上げるテーマを、ここでは「あなたがこれまでに経験した、あるいはよく知っている事業又はプロジェクト(あるいはより広く、所属する組織や業界としてもよい。)を 1 つ」と、かなり広く定義していますが、この定義に外れたテーマとならないよう、注意が必要です。

 

ここでいう総合技術監理の視点とは、「業務全体を俯瞰し、経済性管理、安全管理、人的資源管理、情報管理、社会環境管理に関する総合的な分析、評価に基づいて、最適な企画、計画、実施、対応等を行う。」立場からの視点をいう。

改めて言うまでもない総監の5つの管理を総合的に用いること、5つの管理のトレードオフの視点を入れた計画や対応を行うことが、この段落では指示されています。

第6段落(要求事項3:評価項目)

なお、書かれた論文を評価する際、考察における視点の広さ記述の明確さと論理的なつながり、そして論文全体のまとまりを特に重視する。

この段落は総監筆記試験採点での評価項目についてです。総監技術士に求められる要求事項でもあります。下記の3点となります。

  1. 考察における視点の広さ:5つの管理とトレードオフの視点から考察すること。
  2. 記述の明確さと論理的なつながり:結論と理由が明らかで、論理的な内容であること。
  3. 論文全体のまとまり:数多い設問に対し、一貫したテーマや文脈を通して解答すること。

特に3つ目は、解答全体で一本筋を通すことを差しています。記述内容があちこち飛ぶようでは評価は上がりません。

また、本問題は働き方改革実行計画への全面的賛同を前提にしているものではなく、批判的な内容であっても構わない。

最後の一文は注意点です。

前文要旨のまとめ

最後に、以上の前文分析結果を要旨としてまとめました。

平成30年度過去問 前文要旨

1.働き方改革の背景
1.1長時間労働の抑制
1.2労働生産性の向上
1.3技術革新に伴う必要人材要件の急速な変化
1.4時短労働や副業

2.「働き方改革実行計画」策定の背景
2.1将来的な高齢化率の上昇
2.2就業者数の減少
2.3現状における年平均労働時間の長さ2.4パートタイム労働者の賃金水準の低さ

3.働き方に変化を及ぼした事例
3.1建設現場や工場における危険作業の機械化による安全性の向上
3.2コンピュータの発達による設計作業や事務作業の効率化
3.3交通網の発達に伴う地域間の協働や交渉の容易化
3.4情報通信技術の進展を背景としたコミュニケーション形態や働く場所の多様化
3.5社会環境意識の高まりに伴う配慮すべきステークホルダーの拡大
3.6熟練労働者の減少に伴う徒弟制度的な技能訓練方法の変化
3.7いわゆる男女躍用機会均等法による女性の社会進出の加速
3.8社会的、政策的要求を背景とした子育て世代や障害者の雇用促進

4.働き方改革の必要性、具体的な方策とその影響等について考えていくこと
4.1働き方改革の必要性
4.2具体的な方策
4.3働き方改革の影響等

5.要求事項
5.1取り上げるテーマは。これまでに経験した、あるいはよく知っている事業又はプロジェクトを 1 つ
5.2考察における視点の広さ:5つの管理とトレードオフの視点から考察すること。
5.3記述の明確さと論理的なつながり:結論と理由が明らかで、論理的な内容であること。
5.4論文全体のまとまり:数多い設問に対し、一貫したテーマや文脈を通して解答すること。
5.5本問題は働き方改革実行計画への全面的賛同を前提にしているものではなく、批判的な内容であっても構わない