平成30年度の総監筆記試験問題の解法③です。解答骨子に対し、記述内容を決定します。ここが解答作成の大きなポイントになります。
平成30年度過去問の解答骨子
下記は先に検討した設問(1)~(3)の解答骨子です。「事業・プロジェクト等」は「事業」に統一しています。この解答骨子に対して、何を書くかを順に検討します。
1.取り上げる事業の内容
(1)事業の名称及び概要
(2)事業の目的
(3)事業が創出している成果物
(4)事業での過去と比較して働き方が変化した事例
a)事例の内容
b)変化を及ぼした事象
c)働き方の変化
2.事業が抱える働き方改革の観点からの課題
(1)働き方改革に関係すると考えられる現在の課題1
a)概略
b)働き方への具体的な影響
c)背景
(2)働き方改革に関係すると考えられる現在の課題2
a)概略
b)働き方への具体的な影響
c)背景
3.課題を解決するための技術や方策
(1)課題1について
a)具体的な技術や方策
b)実現するために乗り越えなければならない障害
c)実現した場合の働き方に及ぼす効果
d)実現した場合の留意すべき影響
(2)課題2について
a)具体的な技術や方策
b)実現するために乗り越えなければならない障害
c)実現した場合の働き方に及ぼす効果
d)実現した場合の留意すべき影響
記述内容の検討手順
まず解答骨子の概要を整理してみました。
- 取り上げる事業の内容:事業の名称及び概要、目的、成果物、働き方が変化した事例(事例の内容、変化を及ぼした事象、働き方の変化)を述べる。
- 事業が抱える働き方改革の観点からの課題:働き方改革に関係する2つの課題(概略、働き方への影響、背景)について述べる。
- 課題を解決するための技術や方策:2つの課題を解決する技術・方策、乗り越えるべき障害、働き方に及ぼす影響、留意すべき影響について述べる。
次にここから読みとれる骨子記述のポイントを整理してみました。
- 互いに関係性が高い2.と3.はきっちりとつながった文脈で記述する必要があります。
- 解決策の他に、乗り越えるべき障害(=ボトルネック)や留意すべき影響(=2次リスクやトレードオフの発生)など、3.には付帯事項が多く、すべて対応する必要があります。
- 1.は、2.と3.との文脈のつながりは求められていませんが、1.の内容は、2.と3.と違和感ないようにする必要があります。
さらに骨子内容の検討手順をまとめました。また記述例を「表1 解答骨子の記述例」に作成しました。内容は私の業務分野である農業(施設園芸)です。
1.論文テーマの候補選定
- 働き方改革に関係のあるテーマを自分の経験した、もしくは良く知っている事業またはプロジェクトから候補とする。候補としたのは、途中で不適切と思われた場合は、潔く他のテーマに変更するため。
- そのテーマに沿って1.について事業の概要など簡単に書き出してみる(キーワード程度)→表1 no.2~4。
2.課題の設定
- 1.で候補とした事業について、働き方改革に関する課題を2つ候補にあげ、概略、働き方への影響、背景について簡単に書き出してみる→表1 no.11~13、15~17。
3.課題解決策の設定
- 2.の2つの課題について、解決策を書き出す→表1 no.20、25。
- さらに実現のための障害(ボトルネック→表1 no.21、26)と実現した際の留意事項(2次リスクやトレードオフ→表1 no.22~23、27~28)を書き出す。これがうまく書き出せなければ、2.に戻り課題を変更する。
4.論文テーマの調整
- 2.と3.のつながりを確認できた段階で、1.の論文テーマと違和感がないか確認する。
- 問題があれば論文テーマの候補を差し替えるなど調整をする。
表1 解答骨子の記述例
解答骨子 | 骨子内容 | |
1 | 1.取り上げる事業・プロジェクト等の内容 | |
2 | (1)事業・プロジェクト等の名称及び概要 | 農村地域での大規模施設園芸による野菜生産事業 |
3 | (2)事業・プロジェクト等の目的 | 地域活性化、若者への職場提供 |
4 | (3)事業・プロジェクト等が創出している成果物 | 野菜の周年安定供給、地域雇用創出 |
5 | (4)事業・プロジェクト等での過去と比較して働き方が変化した事例 | |
6 | a)事例の内容 | 障がい者雇用 |
7 | b)変化を及ぼした事象 | 社会的、政策的要求を背景とした(子育て世代や)障害者の雇用促進 |
8 | c)働き方の変化 | 障がい者向けの作業メニュー策定と、健常者との作業分担 |
9 | 2.事業・プロジェクト等が抱える働き方改革の観点からの課題 | |
10 | (1)働き方改革に関係すると考えられる現在の課題1 | |
11 | a)概略 | パート求人に対する応募減少 |
12 | b)働き方への具体的な影響 | 限られた人数での長時間労働 |
13 | c)背景 | 就業者数の減少(他産業との取り合い)、パートタイム労働者の賃金水準の低さ(最低賃金レベル) |
14 | (2)働き方改革に関係すると考えられる現在の課題2 | |
15 | a)概略 | ICT関連技術者の不足 |
16 | b)働き方への具体的な影響 | ICT機器オペレータの長時間労働 |
17 | c)背景 | 技術革新に伴う必要人材要件の急速な変化 |
18 | 3.課題を解決するための技術や方策 | |
19 | (1)課題1について | |
20 | a)具体的な技術や方策 | 時間当たり作業量向上による生産性向上(経済性管理) |
21 | b)実現するために乗り越えなければならない障害 | 作業能力評価にもとずく個別研修OJT(人的資源管理) |
22 | c)実現した場合の働き方に及ぼす効果 | パートの長時間労働低減 |
23 | d)実現した場合の留意すべき影響 | 教える側の負担増(安全管理)と日常業務の調整(人的資源管理とのTO) |
24 | (2)課題2について | |
25 | a)具体的な技術や方策 | ICT機器オペレーションの自動化(経済性管理) |
26 | b)実現するために乗り越えなければならない障害 | 過去のオペレーションと動作環境(気象条件、季節)の抽出とパターン化(情報管理) |
27 | c)実現した場合の働き方に及ぼす効果 | オペレーション作業時間の低減 |
28 | d)実現した場合の留意すべき影響 | 想定外の動作環境への対応(安全管理)とパターン外への想定(情報管理とのTO) |
平成30年度過去問の前文要旨
次に、下記は先に前文を分析した結果をひとつに要旨としてまとめたものです。
1.働き方改革の背景
1.1長時間労働の抑制
1.2労働生産性の向上
1.3技術革新に伴う必要人材要件の急速な変化
1.4時短労働や副業
2.「働き方改革実行計画」策定の背景
2.1将来的な高齢化率の上昇
2.2就業者数の減少
2.3現状における年平均労働時間の長さ2.4パートタイム労働者の賃金水準の低さ
3.働き方に変化を及ぼした事例
3.1建設現場や工場における危険作業の機械化による安全性の向上
3.2コンピュータの発達による設計作業や事務作業の効率化
3.3交通網の発達に伴う地域間の協働や交渉の容易化
3.4情報通信技術の進展を背景としたコミュニケーション形態や働く場所の多様化
3.5社会環境意識の高まりに伴う配慮すべきステークホルダーの拡大
3.6熟練労働者の減少に伴う徒弟制度的な技能訓練方法の変化
3.7いわゆる男女躍用機会均等法による女性の社会進出の加速
3.8社会的、政策的要求を背景とした子育て世代や障害者の雇用促進
4.働き方改革の必要性、具体的な方策とその影響等について考えていくこと
4.1働き方改革の必要性
4.2具体的な方策
4.3働き方改革の影響等
5.要求事項
5.1取り上げるテーマは。これまでに経験した、あるいはよく知っている事業又はプロジェクトを 1 つ
5.2考察における視点の広さ:5つの管理とトレードオフの視点から考察すること。
5.3記述の明確さと論理的なつながり:結論と理由が明らかで、論理的な内容であること。
5.4論文全体のまとまり:数多い設問に対し、一貫したテーマや文脈を通して解答すること。
5.5本問題は働き方改革実行計画への全面的賛同を前提にしているものではなく、批判的な内容であっても構わない
この中で1.や2.の背景や3.の事例などは、解答骨子記述の際に参考にできるものがあるはずですので、それらは骨子に積極的に採用してください。それにより問題を作成した試験委員との意思疎通をはかることができます。
5.の要求事項にある内容が満たされていない骨子では、合格答案を作成できない可能性があるため、確認が必要となります。